キム・ヨナの金メダルは欧米型マーケティング

会社のメールでこういう記事が送られてきました。内容は一般公開されている記事です。

 

2010年3月5日 金曜日     関橋 英作

 今回のバンクーバー冬季五輪は、いつになく見所が多く、気づかされることがたくさんあった大会でした。たしかにスポーツ観戦なのですが、国同士の戦いは戦略という観点で見ると、まるでマーケティングの競い合いといったほうがいいのではないか、と思われました。実はこういうところに、ヒントがあるのです。

それが典型的に表れていたのが、女子フィギュアの戦い。史上最高点をたたき出した韓国のキム・ヨナ選手の演技は、確かに素晴らしいものでした。しかし、その異常なほどの評価の高さには、ちょっと驚かされたのも事実です。彼女の演技は、水が流れるようでスケーティングに途切れがなく、極上のなめらかさというのが一般的な受け止め方でしょう。

しかし、それはマーケティング的に練りこまれたものでした。まず、ターゲットは当然、ジャッジたち。それから、カナダ人や米国人の観客です。ロシアをはじめとする欧州の人たちと違い、明るく分かりやすいものが大好きな国民です。そのためにキム・ヨナ陣営は、カナダ人コーチを選び、練習の地もカナダに。その戦略を決定的にしたのは、ショートプログラムの「007」の曲。誰でも知っていて乗りやすい。観客を味方につける第1弾です。

 

 競合である浅田真央選手が苦手とするショートプログラムで、大きなポイント差をつけようという作戦。真央ちゃんが、ノーミスだったので想定通りの差はつきませんでしたが、それでも4.72の差をキープしました。また、ご存知のようにフィギュアは、人間が点数をつける競技。彼らへの心理作戦は、PRキャンペーンに似ています。「女王」というイメージをつけることから、もう採点が始まっているのです。今回のキム・ヨナ選手の報道への対応を見ていても、真央ちゃんをライバルとして語っていません。“自分の演技をするだけ”、あくまで女王らしさを保っています。

それから、一番の戦略は「フィギュアの評価はネットインプレッション」という主張。トリプルアクセルなどの大技ではなく、総合的に美しいこと。これをフィギュア界に浸透させたことです。フィギュアは、スポーツであると同時にダンスのようなパフォーマンス。つまり、エンターテインメントだという先入観を女王の演技でつくっていったのです。そのピークをオリンピックに。

それが功を奏して、「GOE」という演技の出来栄えに加点されるポイント加算が、ほかの選手より多くなっていきました。ですから、トリプルアクセルなどの大技をギリギリで達成するより、3回転+3回転のほうが余裕を持ってできるので、そちらの方を選んだのです。結果はキム・ヨナ選手だけが、この恩恵を受けました。まさに、金メダルのために「何をするべきか」(What to do?)というマーケティングの基本戦略です。

この先入観は、思わぬ広がりも生みました。米国人のジャッジは4回転ができないライサチェク選手を勝たせるために、フィギュアは総合力の美しさで決めるべきだ、というメールを事前にほかのジャッジに送っていたともいわれています。これも、結果的にダメ押し的なトレンドとなったわけです。キム・ヨナ選手の金メダルが決まった瞬間は、まんまとしてやられたと思いましたが、待てよ、という声が頭のどこかで聞こえました。

これでは、決められた枠の中で多い少ないを決めているだけではないか。枠からはみ出したモノは生まれないし、想像を超えたような、とてつもないフィギュアは出てこない。まさに、フレームワークで戦略を決めていく、従来通りの欧米型マーケティングの限界そのものではありませんか。そう思って振り返ると、目的を決めて、その中で決めたことをやったにすぎない。もちろん、それを達成することは素晴らしいことですが、今のような社会状況を考えると、これからのマーケティングにとって参考にすべき新しい展開は見えません。これこそが、フレームワークの集大成と言っていいでしょう。

一方、トリプルアクセルにこだわり、ロシアの怒りと悲しみを表したラフマニノフの「鐘」を選んだ浅田真央選手。とても、勝つための戦略を考えていたとは思えません。誰も到達したことのない技、自分の表現力を超えた芸のことしか眼中になかったのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それこそは、未知の領域。人間がまだ見たことのない神の領域。もともと、スポーツも神と交信する芸能の1つ。人間社会という枠の外へ魂を飛ばして、まだ見ぬものをつかむ行為です。芸術のことを考えると分かりやすいでしょう。浅田真央選手の後半の演技を見ていると、まるで神が憑依(ひょうい)したような表情をしていました。何かにつかれたような一心不乱状態から、とんでもないものが生まれることを私たち人間は経験的に知っています。そこには計算もなく、ただ外の世界に触れたいという願いだけ。それが現実になったとき、歴史が変わる。多分、そうして時代の問題が解決されていくのでしょう。

都市のことを考えると分かりやすいと思います。人間は、外の世界を排除するために外壁を作って外からの影響を断ちました。つまり、自然の繁茂を排除したのです。そのせいで、内側の論理だけで事が済むようになりました。一方、芸術はその都市の矛盾を突き破るために外の世界とつながることを考えたのです。ときに、芸術が社会規範から外れているように感じるのはそのためです。

ここ1年くらい、日本的芸術の力をマーケティングにと考えていましたが、たまたま中沢新一さんと、しりあがり寿さんという異色の対談を聞いていて、頭の中のモヤモヤがパッと晴れました。欧米型マーケティングの弱点が見えたのです。ゴールを決めて、それを達成するために何をすべきかを決める。このフレームワークはもちろん有効です。その典型的な例が、エンターテインメントビジネス。サーカスでもアミューズメントパークでも、3D映画でもいいでしょう。ゴールは、観衆をキャーッとさせて、あー面白かったと言って帰ってもらうこと。一種のドキドキ装置を作って見せることです。

みなさんも感じるでしょうが、そのときはいいが、後には何も残らない。その時限りのお楽しみです。しかも、想定内で終わるので、見ていてもストレスがない。確かに、分かりやすく楽しめるでしょうが、それで何かが変わるはずもありません。もちろん、そんなことは思っていないでしょうが。これが、エンターテインメントの弱点であり、芸術との違いです。

今、口々にブレークスルーが必要だと言いますが、これまでのようなやり方で古い価値観をぶち破ることができるでしょうか。浅田真央選手のように、戦略も無くとんでもないものに手を伸ばさない限り、新しいタイプの戦略(?)が生まれる可能性はありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例えば、日本の文字は中国からやってきましたが、中国人は日本の草書のような字は書きません。伝統という枠組みがそれを許さないのです。しかし、日本人はぞんざいなまでに書きなぐる。そこから、新しい文字芸能が生まれました。また禅宗にしても、すべてのものに意味を持たせないことを考えた妙な宗教です。このように日本人は、決まりきった価値をつくっていくことを“何となく”嫌う民族なのです。伝統を守る訳でもなく、外からやってくるものに目を奪われ飛びつく。中途半端と言えばそうですが、未知に弱いとも言える。また、しっかりと枠組みを構築することができない。曖昧(あいまい)を愛する人たちです。それでも、分かりきった勝ち負けを作らないから、弱者にも生きる道が残る。そのうち役に立つことがあるだろうという、何となくの確信です。

そうです!日本人はめちゃくちゃ面白い、変な人たちなのです。欧米人とはもちろん違うし、アジア人とも異なる。何だか妙な人たち。この神髄は、多様性が大好きということ。ま、何でもアリということです。私はこれこそが、これからのマーケティングのあり方と思っています。漫画のような抽象的で論理破綻した芸術が世界中で受け入れられているのです。何だか分からないけど、これがいい。そこには、何となく分かる霊性の日本マーケティングが潜んでいます。それを、ものにすれば間違いなく変わるはずです。

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~ by kazuhiro : 2010/03/13.

コメント / トラックバック4件 to “キム・ヨナの金メダルは欧米型マーケティング”

  1. 日本はアジアの国ですし、その中でも特殊な国なので、欧米式には馴染みませんね。マーケッティングは欧米の手法ですから・・・欧米かっ!(タカ&トシ)

  2. [いいですね]

  3. 浅田真央が戦ってきたもの・・・
    読みました。昔のスキー複合の荻原のワールドカップ優勝後と同じですね。ルールを萩原の不利に変更したのを思い出した。

  4. [いいですね]

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