【映画 さびしんぼう】
【Kazuhiro解説】
大林監督の尾道三部作で見ていなかった一作。黒澤明はこの作品を大変気に入り、自分のチーム“黒澤組”のスタッフにも見るように指示したといいます。
さびしんぼうの富田靖子のキュートな魅力、明るい笑顔、寂しい表情が作品価値を高めています。三部作に常連の尾美としのりの演技も光り、また、母親の藤田弓子が息子に昔の恋を問われるやりとりに心打たれました。ショパンの曲にのせた尾道の風景も素晴らしかった。そして幻想のように登場する「さびしんぼう」と憧れの美少女、16歳の時代の母親の組み合わせのシュールなストーリも気に入りました。ラストシーンで父と同じように無表情でお経を上げる主人公の横にいた妻、遠くで「別れの歌」を弾く娘、ピアノの上にある昔のプレゼントのオルゴール。出てくるもの全てが息づいている映画でした。けして「懐かしくも悲しい初恋の話」ではありません。
【あらすじとキャスト】
写真を趣味とする高校生の井上ヒロキは、名前も知らぬ他校の美少女(橘百合子)を「さびしんぼう」と呼び、憧れていた。そんなある日、友人ふたりと共に家である寺の本堂を掃除したのだが、母の古い写真の束をうっかり散乱させてしまう。その直後、ヒロキの前に突然、ピエロのような白塗りメイクとオーバーオールの奇妙な少女が、散乱した写真から抜け出たように現れた。突然現れて、何処へともなく消える彼女が名乗る名前も、なんと「さびしんぼう」!
ある日のこと、百合子は通学の自転車が壊れ難儀していた。それを助けたことをきっかけに、ヒロキは憧れの君である「さびしんぼう」とも知り合うことが出来た。ふたりの「さびしんぼう」とヒロキが尾道の町を舞台に織り成す、懐かしくも悲しい初恋の物語である。
脚本 – 剣持亘、内藤忠司、大林宣彦
監督・編集 – 大林宣彦
原作 – 山中恒『なんだかへんて子』
音楽 – 宮崎尚志
主題歌 – 富田靖子「さびしんぼう」(ショパンの「別れの曲」)
富田靖子 – さびしんぼう、橘百合子、ほか 一人四役
尾美としのり – 主人公井上ヒロキ役
藤田弓子 – 主人公の母親井上タツ子役
小林稔侍 – 主人公の父親で寺の住職井上道了役
浦辺粂子 – 主人公の祖母井上フキ役
岸部一徳 – 学校の先生吉田徹役
秋川リサ – 学校の先生大村カズコ役
佐藤允 – 学校の校長役
入江若葉 – PTA会長役
砂川真吾 – 主人公の友人田川マコト役
大山大介 – 主人公の友人久保カズオ役
林優枝 – 主人公の幼馴染木鳥マスコ役
根岸季衣 – マコトの母役
明日香尚 – カズオの母役
峰岸徹 – カズオの父役
樹木希林 – 主人公の母親の旧友雨野テルエ役
小林聡美 – テルエの娘雨野ユキミ役
1985年公開